第14回 冬のワークショップ 開催報告

脳と心のメカニズム "Future perspectives of computational brain science"

201418()-10() 3日間、北海道のルスツリゾートにて、脳と心のメカニズム第14回冬のワークショップが開催されました。「脳の計算論の未来」をテーマに全国から9名の講師をお招きして、ご講演をお願いしました。ポスターセッションは65件の発表があり、総勢113名の参加による、活発なディスカッションが行われ、充実したワークショップとなりました。


集合写真ならびに会議の様子

初日(9)はスペシャルセッションのテーマ「快・不快」に関連して3名の国内外の著名な研究者にご講演いただきました。松元先生は、内的な動機付けが報酬でむしろ低下する「undermining」という現象の神経機構についてお話し下さいました。Small先生は、食物の選択は食後の血糖値上昇によって強化される「好き嫌い」とは独立した神経メカニズムに支配されているという驚くべき発見についてご紹介されました。Berridge先生は、「好き」と「欲する」神経回路は別物である一方、「欲望」と「恐れ」には共通する神経機構が存在することなど、「快・不快」に関係する神経回路の構成について最先端の知見をわかりやすく整理して下さいました。

2日目(10)のトピックセッションでは「匂い」に関係した講演3題が並びました。風間先生は匂い認識の神経機構についてショウジョウバエを使った研究成果をお話し下さいました。内田先生は、ドパミンニューロンの報酬応答を作り出す神経メカニズムについて、オプトジェネシス等の最先端の分子生理学的技法を駆使して解明された成果を紹介して下さいました。投射先や細胞の種類を特定しながらドパミン応答の計算過程を詳らかにする過程は一流の推理小説のようで、一同固唾を飲んで聴き入りました。三浦先生は、複数の神経の活動から情報を読み出す際に、神経群に共通するノイズが入力しているといくら観測回数を増やしても得られる情報が頭打ちになるという理論的な背景から説き起こして、匂いを検出する梨状皮質では匂いを嗅ぐタイミングに合わせてノイズの相互相関が低下する、という興味深い解析結果を紹介くださいました。三浦先生は内田先生の生理学的なデータを解析されており、理論と実験研究の橋渡しという本ワークショップの趣旨にかなうご報告でした。

3日目(11)3名の若手研究者による最新の研究成果のご報告でした。山本慎也先生は、サルの尾状核の尾部に、目標がなんであるか(What)と目標がどこにあるか (Where)の情報が共存しているという結果を、山本真也先生は、チンパンジーの社会性行動についての最新の知見を、渡邊先生は視覚意識が一次視覚野の活動とは無相関であるという従来の定説を覆す結果を報告されました。


9名の講師の先生方

©2012 Mechanism of Brain and Mind

The 13th Winter Workshop

  

第14回 冬のワークショップ 開催報告

脳の計算論の未来 "Future perspectives of computational brain science"

201418()-10() 3日間、北海道のルスツリゾートにて、脳と心のメカニズム第14回冬のワークショップが開催されました。「脳の計算論の未来」をテーマに全国から9名の講師をお招きして、ご講演をお願いしました。ポスターセッションは65件の発表があり、総勢113名の参加による、活発なディスカッションが行われ、充実したワークショップとなりました。


会議の様子

初日(8)は「脳の計算論の未来」をテーマにして、脳の計算論の世界的権威である3名の先生方にご講演いただきました。 甘利先生は宇宙の起源から説き起こし、物理現象の観察から物理法則が抽象されたように、脳の動作の背景にある複数の根本原理を数理を用いて抽象することの重要性についてお話くださいました。 脳は複雑なシステムであるために原理の発見は困難を伴うが、実現可能であることを、神経回路の状態遷移のダイナミクスの法則と、自己組織化と学習を組み合わせたDeep learningの法則を具体例として示されました。 De Schutter先生は、分子レベルからシステムレベルまで複数の階層をまたいだ精密な神経系の挙動のシミュレーションを可能にするシステムの開発についてお話をされ、それらを組み合わせることで、 まずはげっ歯類の行動が、分子、細胞のレベルからシームレスにシミュレーションできる未来について語られました。 川人先生は、運動の学習制御の理論からモデルパラメータとの相関に基づく脳機能解明の試みを経て、脳の活動(原因)と行動や心などの結果の間の因果関係を明確に解き明かすための「操作脳科学」にいたる研究の展開と、 精神疾患の治療を目指した現在進行形の研究から将来展望までをお話くださいました。 会場からは若手を中心に「神経科学の未来にとって最重要課題は何か」等の根源的な質問が頻出し、講師からは「3名の目指す方向性が違うことこそ若手のチャンス」であり「先人の真似をしても先人は越えられない」から、 「自ら重要と信じる課題にアタックせよ」との力強いメッセージが伝えられました。

2日目と3日目は6名の新進気鋭の研究者がホットトピックについて講演し、会場は活発な議論が展開されました。
2日目(9日)の最初の演者である田中先生は、一次運動野の神経活動に関する複雑な知見が「肩から手先に向かう位置ベクトル」と手先の速度や加速度との外積として見事に説明できることと、 その理論的背景(上肢の運動方程式の外積を用いた表現)を説明して、さらに理論を検証する脳波計測の実験まで話されました。 山田先生は「物理的な現実」と異なる視覚的な錯覚や、「自分のありのままの姿」と異なる自己評価の「ポジティブ錯覚」のいずれもが、 視床や視床枕、あるいは基底核のドパミンと密接に関連していることを独創的な実験パラダイムと脳機能イメージング法を組み合わせて示されました。 西本先生は自然動画を入力時系列とする線形モデルでfMRIで計測した脳の各ボクセルのBOLD信号変化が再構成できることを示されました。 とくに自然動画の内容を人間がコーディングしたカテゴリーラベルの時系列入力によるBOLD信号の再構成は圧巻で、脳表に描き出された「意味空間」はまさにthought-provokingでした。
3日目(10日)には報酬と罰と学習に関連した最新研究成果が3名の演者によって紹介されました。 Johansen先生はfear conditioningの神経回路を最新のoptogeneticな手法を駆使して解明した美しい研究成果を紹介されました。 松本先生は、報酬の予測誤差を表現するとされてきたドーパミンニューロンに、刺激の新規性を表現する別個のグループがあることを示す画期的な成果を紹介され、それぞれの機能的意義について考察されました。 中原先生は社会的な行動の基本となる他者の心を推定する「心の理論」に対する計算論的アプローチとその成果について紹介し、今後を展望しました。 いずれの発表でも、実験系研究者は理論やモデルを駆使し、理論系研究者は実験データを説明する原理の発見を目指しており、実験系研究者と理論系研究者の間にきわめて太い橋がすでに架けられていることが実感されました。


9名の講師の先生方

©2012 Mechanism of Brain and Mind